2001年08月06日

因幡 正代
創薬ターゲット分子の探索−1

 この10年間、遺伝子をゲノムスケールで網羅的に解析する技術が急速に進歩してきた。ヒトゲノムプロジェクトではすでに98.5%のドラフトシークエンスが公開されており、2003年までには終了する予定である。また、日本ではヒト完全長cDNAの収集から、タンパク質機能解析へと向かいつつある。遺伝子の発現についてもDNAマイクロアレイなどの新しい技術により、沢山の遺伝子を一挙に解析できるようになってきている。また、遺伝子配列の個人差(遺伝子多型)は一塩基多型(single nucleotide polymorpharphisms; SNPs)として体系的にかつ網羅的に捉えられようとしている。こうしたゲノム研究の進歩は創薬に大きな影響を与えつつある。既存の創薬とは異なりゲノム創薬は、人間の設計図、その遺伝子発現、個人差を解析しつつ、遺伝子から分子、細胞、組織、個体へと進む創薬になる。

 ヒトゲノム上には4〜14万個の遺伝子が存在すると言われている。この膨大な数の分子の中から創薬ターゲットとして適切な分子を探し出さなければならない。どの分子を創薬ターゲットにしてその阻害剤を開発したら、より優れた薬効が期待できるのであろうか。今回から数回に分けて「創薬ターゲット分子の探索」というテーマで解説していきたい。第1回目は、遺伝子から疾患へ向かうアプローチと、逆に疾患から遺伝子へと向かうものとに分けて説明したい。

 尚、今回はバイオの専門的な内容になったので、後日改めてわかりやすく用語を解説する予定である。

1)遺伝子から疾患へのアプローチ

ゲノム配列やEST(expressed sequence tags) や完全長cDNAライブラリーなどのデータベースから、コンピューター上でホモロジー解析やモチーフ解析をなどのソフトウェアを駆使してターゲット分子の候補を見つける(in silico解析)。現在用いられている薬物の多くは、Gタンパク質共役型受容体、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)、イオンチャンネル、トランスポーター、核内受容体をターゲットしており、これらの分子群はその構造的特徴から比較的容易に遺伝子配列を抽出できることから、新規分子が精力的に同定されている。また、すでに知られているターゲット分子と相互作用する分子をtwo-hybrid法などにより同定されているものもある。

2)疾患から遺伝子へのアプローチ

単一の遺伝子異常により引き起こされる遺伝子疾患については、ポジショナルクローニングと呼ばれている分子遺伝的解析から原因遺伝子が特定されている。例えば、家族性大腸ポリーブ、ハンチントン病、家族性アルツハイマー病などがあげられる。しかし、患者数の多い生活習慣病、例えば、糖尿病、痴呆症、精神分裂病、リウマチ、アレルギー、骨粗鬆症、癌などでは、単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子が関与している。こうした多遺伝子性疾患については、SNPs解析などのアプローチがとられている。また、標的とする疾患やモデル動物によって発現が変動する遺伝子をDNAマイクロアレイなどで同定する手法も多数の分子を迅速に選別するのに適している。

 こうして見いだされた候補分子の創薬ターゲットとしての妥当性は、その候補分子を、分子生物学の手法を用いて欠失させたノックアウトマウスやアンチセンス核酸、抗体、化合物などを用いた実験を通して判断される。


図. ゲノム研究に基づく創薬プロセス

表


ゲノム研究に基づき標的遺伝子を同定し、臨床前試験に至るまでのゲノム創薬のプロセスを示す。大学、研究所、種々のベンチャーはそれぞれの特徴を発揮して重要な役割を果たしているが、多くの製薬会社はこれらを自社内にセットアップするために合併し大型化を進めている。
以 上


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