2001年10月31日

因幡 正代
プリオン病-2

 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(v-CJD)
 前回にも触れたが、クロイツフェルト-ヤコブ病には孤発性や家族性などのいくつかの型がある。これらは稀であるが致命的な疾患で、主として40〜80歳の人々で見られ、急速に進行する痴呆が特徴的である。このような従来のクロイツフェルト-ヤコブ病とは異なり、若い人々で見られる新種のクロイツフェルト-ヤコブ病が1996年に認められ、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病( variant Creutzfeldt-Jakob Disease : vCJD )または新変異型クロイツフェルト-ヤコブ病( new variant Creutzfeldt-Jakob Disease : nvCJD )と呼ばれている。変異型クロイツフェルト-ヤコブ病は、最初は、抑うつ、不安、無感動、引きこもり、妄想などの精神症状で発病することが多く、痴呆などの症状の進行は、孤発性や家族性のクロイツフェルト-ヤコブ病に比べると遅い。英国での統計によれば、新変異型クロイツフェルト-ヤコブ病で亡くなった患者の半数以上が30歳未満で亡くなってる。また、変異型クロイツフェルト-ヤコブ病の患者発生報告数の累計は、英国において2001年9月28日の時点で107例である。
 異常プリオン検査法
 異常プリオン蛋白の検査法について、欧州協議会は4つの検査法について評価を行い、その成績を1999年7月8日に発表してる。評価にあたっては、自然感染で臨床症状が出ている牛の脳幹と脊髄を陽性サンプル、ニュージーランドで採取した健康な牛の脳幹と脊髄(異常プリオンフリー)を陰性サンプルとして、ベルギーの共同研究センターが調整し、コード番号のみをつけて配布した、いわゆるブラインドテストを依頼した。そして感受性(陽性と判定されたサンプル数/既知の感染動物数)、特異性(陰性と判定されたサンプル数/既知の非感染対照動物数)、希釈度、再現性の面で評価が行われた。その結果を表に簡単にまとめた。

 これら4社のうち、Bio-rad社、プリオニクス社、エンファー社がヨーロッパ委員会で承認されている。Bio-rad社はとくに感度が高い点を強調しているが、一方で擬陽性の結果が多いという問題があるようだ。今のところ、プリオニクスが一番売れているようである。スペインでは先月までは免疫組織検査によるプリオン検査のサンプルは英国に送っていたが、BSE牛が見つかったことから世論が高まり、自国で検査することになった。その結果、プリオニクスのキット546,000セット分の予算が議会で承認されたと伝えられている。ともかく、昨年ドイツでBSE牛が見つかってからプリオニクスのキットの売れ行きは非常にのびているらしい。
 診断キット開発にかかわっているその他の機関
 表にまとめた4社以外にも多くの企業が診断キットの開発を行っている。<参考>はそれらをアルファベット順にリストアップしたものである。多くはウシ海綿状脳症(BSE)を対象としたものだが、スクレイピーやクロイツフェルト・ヤコブ病を対象としたものも含まれている。

 これまで、牛についてのBSEの検査は死後の脳の病変の検出という病理組織検査に依存していた。しかし、表にまとめたように、死亡した牛の脳についてヨーロッパではプリオニクス社、エンファー社、Bio-rad社の生化学検査キットによる異常プリオン蛋白検出が広く用いられるようになってきた。病理組織検査では対応できるサンプル数が限られるが、生化学検査キットならば何十万というサンプルでも検査可能なため、BSE汚染の疑いのある欧州連合では、広範囲の監視に利用されるようになると思われる。

 しかし、どのキットが妥当かについては、欧州連合としての評価は行っていない。ヨーロッパ委員会の報告書でも、そこに述べられている見解は欧州連合の公式のものではないと断り書きがある。BSEの検査キットは将来的に莫大な利益が見込めるため、国際的な評価はなかなか難しいのかもしれない。
図:異常プリオン検査の表
試験名原理開発企業感受性特異性*希釈度試験備考
Wallac
DELFIA試験
プリオン蛋白に対する2種類のモノクローナル抗体を用いた非競合免疫測定法(DELFIA)E.G.& Wallac社
(英国)
69.8%89.8%10の1乗(10倍)希釈では検出されなかった 
プリオニクス
・テスト
プリオン蛋白に対するモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロットによる異常プリオン蛋白の検出試験Prionics社
(スイス)
100%100%20サンプル中15サンプルが 10の1乗希釈で検出されたPrionics社は、プリオン遺伝子の分離を行なったBruno Oeschによって設立された。検査時間は、7〜8時間。スイスでは定期検査に採用されている。
エンファー
・テスト
プリオン蛋白に対するポリクローナル抗体を利用した化学発光EL ISAEnfer
Technology社
(アイルランド)
100%100%10の1乗および10の1.5乗希釈で検出された検査時間は、4時間以内で1997年も野外試験では3000頭の脊髄サンプルが調べられ発売後1998年には、15000頭のサンプルが調べられた。
CEAテストプリオン蛋白に対する2種類のモノクローナル抗体を利用したサンドイッチ免疫試験による異常プリオンの検出フランス原子力委員会が開発し、Bio-Rad社(米国)から発売100%100%10の2乗希釈で全て陽性、10の2.5乗希釈では、90%が陽性検査時間は24時間以内。ただし自動化で短縮可能
*希釈度試験・・・高い希釈倍率で陽性結果が得られる試験ほど、感度の高い試験とされる。
(希釈とは、溶液をその溶媒で薄め、濃度を減少させること。)



<参考>
企業
Abbeymoy Ltd
Altegen Inc
Anonyx Inc
Bayer
Biolabs(現在はBenesis Bioventures)
Bio-Rad Inc
Boehringer-Ingelheim AG
Caprion Pharmaceuticals Inc
Celcus Inc
Centre Suisse d'Electronique et de Microtechnique SA
Niel Constantine
Enfer Scientific Ltd
Microsens Biophage Ltd
Nen Life Science Products Inc
Paradigm Genetics Inc
Prion Developmental Laboratories Inc
Prionics
Proteome Sciences Ltd
Q-One Biotech Ltd

大学・研究所
Commissariat a l'Energie Atomique(フランス原子力委員会)
New York State Basic Research Institute for Neurological
Disorders
USDA(米国農務省)
このほかにも多数あるようである。日本でもスクレイピーについては
帯広大学、家畜衛生試験場などで検討されている。
以 上


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