2001年11月12日

因幡 正代
炭疽(anthrax)-1

 最近、米国における炭疽病関連のニュースが世界中の関心を集めている。11月8日発売の科学雑誌Natureには、炭疽菌に関する論文が2報掲載されている。この分野における研究の一刻も早い議論と発展の為に報道解禁が繰り上げられ、雑誌発売前にそれらの論文がweb上で公開されていた。今回は、2回に分け炭疽病に焦点をあてて解説したい。

・概要

 炭疽は Bacillus anthracis (炭疽菌)によっておこる疾病である。牛、馬、めん羊、山羊などの草食動物は炭疽菌に対して感受性が高い。豚、犬およびヒトは比較的抵抗性が強いと言われているが、ヒトにも感染し、公衆衛生上極めて重要な人畜共通感染症である。炭疽菌は典型的な土壌菌で、干ばつ、洪水、長雨などの異常気象のあと、土中の芽胞が土表面に現れ、外気温に暖められた沈泥中で増殖する。また、いったん芽胞をつくると長い間(少なくとも数十年)栄養素がない状態で土壌や動物製品などに存在することが可能である。

 炭疽は感染動物からヒトへは感染するが、ヒトからヒトへの感染はない。疫学的状況については、動物においては世界各国で発生しており、ヒトでは獣疫の管理が不十分な土地、イラン、イラク、トルコ、パキスタン、サハラ砂漠以南の地域が好発地域である。通常は、羊などの毛を取り扱う職人が感染していた。

 炭疽は感染部位により、3つに分類できる。通常90%以上が皮膚炭疽であり、これは皮膚に付着した芽胞が皮膚の傷から進入して起こる。腸炭疽は、感染した動物の肉を十分に調理せずに食べた場合に発生するが、稀である。肺炭疽は芽胞を吸入した場合に起こる。これもヒトでは稀であるが、先日、米国フロリダ州で死亡した患者は肺炭疽であった。肺炭疽の場合、1〜7日間の潜伏期間を経て、感冒様症状で発病するが、数日後突然症状が悪化し、呼吸困難、チアノーゼ、痙攣がおこり最終的に死に至る。無治療では90%以上の致死率である。

 炭疽菌の病原性因子として、莢膜と外毒素がある。莢膜は宿主の食菌作用に抵抗する働きがあるとされている。外毒素には浮腫因子(oedema  factor、OF)とよばれる2種類の蛋白毒素が知られており、さらにこれらの毒素を宿主細胞内に運ぶための防御抗原(protective antigen, PA)と呼ばれる蛋白を産生する。PAはそれ自身毒性がないが、LFおよびEFの活性に必須の蛋白である。EFは炭疽の症状に特有の浮腫を惹起し、炭疽による動物の死はLFによるショックによるものと考えられている。

 次回は、炭疽病に用いられる抗生物質、また炭疽菌が産生する毒素についてNatureで発表された論文の内容も交えて解説したい。


 用語
  • 芽胞・・・細菌が増殖に適さない環境にさらされた場合に菌体内で作られる耐久性の構造物である。芽胞は固い殻で覆われているので、外側の細胞が破壊されても芽胞自体が破壊されにくい。将来細菌にとって温度や栄養状態など都合の良い環境になったら再び栄養型細菌として発芽してくる。こうして、芽胞菌は厳しい生存環境になっても細菌として生き残ることが出来る。

  • チアノーゼ・・・血液中に酸素が減少し、二酸化炭素が増加したため、皮膚や粘膜が青紫色を帯びること。唇・爪・四肢の先などで目立つ。呼吸困難や心臓の障害で起こる。
以 上


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