2001年11月27日

因幡 正代

炭疽(anthrax)-2

・予防薬と治療薬

 炭疽予防薬として、ワクチンがあげられる。炭疽菌ワクチンは、わが国では販売されていない。米国、英国で死菌ワクチン、中国、ロシアで生菌ワクチンが販売されている。接種方法は米国では、2週間ごとの3回皮下注のあと、半年ごとの3回皮下注、さらに1年ごとの追加接種であり、副作用の発生頻度が高いこと、また長期にわたり頻繁に接種しなければならず、あまり一般的ではない。

 炭疽は、感染後、抗生物質により治療可能な疾患であるため、炭疽治療薬として抗生物質が注目されている。ペニシリンG、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、アモキシシリン等の抗生物質が有効であるが、早期に対応することが重要である。さらに暴露された後、無症状の時点から予防的に治療することも可能である。しかし、むやみに服用すると、抗生物質が効かない耐性菌が蔓延してしまう危険性があることや、副作用もあることから、不必要な段階からの予防的投与は控えられている。

・炭疽に対する適応拡大

 米国における炭疽菌事件に伴い、現在販売中の合成抗菌剤について、炭疽に対する適応の拡大申請が相次いでいる。現在、日本で炭疽病治療に承認されている抗生物質はテトラサイクリン、ベンジルペニシリンなどである。米国ではシプロフロキサシンが主流であるが、日本では製薬会社からの承認申請がなかったため、ブドウ球菌などほかの細菌による炎症の治療に限ってシプロフロキサシンが使用されてきた。シプロフロキサシンは医療機関などに在庫があるので、医師の判断で使用は可能だが、治療や薬剤費が医療保険外になる。また、副作用などの被害が出た場合、公的救済制度の対象にはならない。

 炭疽に対する適応拡大について、バイエル薬品はシプロキサン(一般名シプロフロキサシン)、第一製薬はクラビット(レボフロキサシン)、大日本製薬はスパラ(スパルフロキサシン)、富山化学はオゼックス(トスフロキサシン)、ファイザー製薬はテトラサイクリン系のビブラマイシン(ドキシサイクリン)、杏林製薬はバクシダール(ノルフロキサシン)で申請している。

・炭疽菌に関する新しい研究

 現在治療に使われている抗生物質は炭疽菌自体を攻撃するが、感染者の体内で菌がすでに大量の毒素を放出してしまっている場合は効果がない。そのため、毒素に直接作用する薬の開発が急がれている。

 11月5日発行のNature誌に炭疽菌に関する報告が2報掲載されている。米バーナム研究所のRobert Liddingyon 博士らにより、炭疽菌のLF毒素の結晶構造が明らかにされた。また、米ウィスコンシン大のJohon.Young 博士らのチームにより、炭疽菌のPA毒素が結合する受容体が明らかにされた。さらに受容体分子内におけるPA毒素結合部位が明らかにされた。 炭疽菌のPA毒素は、受容体から細胞に取り付き、その後LE毒素が細胞内に注入されるということが知られているが、彼らはさらに可溶性PA受容体を遺伝子操作で作成し、それによって炭疽菌毒素を引き寄せ、細胞上への毒素の結合を阻害することができた。

 炭疽の治療には、現在、シプロフロキサシンなどの抗生物質が使われていることは前述のとおりである。しかし、抗生物質は毒素を直接攻撃するわけではなく、また多用しすぎると、耐性菌が出現する恐れもある。もし、毒素を直接攻撃できるような新薬ができれば、炭疽の治療に多大なる貢献を果たすであろう。





以 上


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