2005年6月24日 VOL.3

白馬
「企業業績下方修正ラッシュ?」


 外国人を中心に日本の景気に対する楽観論が復活してきた。株価も堅調さを取り戻しつつある。なぜだろうか。それは、外需環境が悪化しているにもかかわらず、日本の国内景気が堅調であり、GDP成長率も底堅いからである。


 実際、こうした楽観論は、大雑把に言えば、間違っていないと言える。すなわち、昨年央以来の外需の落ち込みは、既に1997−98年のアジア通貨危機直後のレベルに匹敵するほど大きなものとなっているが、これまでのところ、名目GDP成長率はマイナスの領域に入っていない。アジア通貨危機後に名目GDP成長率がマイナス2%程度にクラッシュした当時を思えば、足元の国内景気は如何にも堅調である。


 日本経済のファンダメンタルズが改善している背景については、大きく分けて2つある。1つは、長年にわたる銀行の不良債権処理問題に漸く目処が立ち、国民の金融システムに対する不安感が大きく後退したことである。


 雇用者報酬(いわゆるサラリーマンの総報酬)に対する家計消費の比率の動きをみると、2003年半ば以降、消費者態度指数の好転と並行して上昇基調にあることが示される。ジョブ・セキュリティ(定職の確保に関する人々の意識)が改善する中で、消費性向が上向き、個人消費が下支えされているわけだ。


 日銀の量的緩和政策と政府の銀行に対する公的資本注入政策を受けて、銀行は大企業も含め、多くの債務免除を行った。この結果、企業倒産が激減していることが、消費者の生活安心感をもたらしている。消費者は、1990年代後半から2001−2002年にかけて、アジア通貨危機や世界的なITバブル崩壊という不幸なショックに見舞われた。この時期、彼らの将来不安はピークに達し、消費を取りやめ、せっせと貯蓄に励んだのである。いまや、その逆のことが起こっている。つまり、90年代後半から2001−2002年までに溜め込んだ「貯蓄」を取り崩し始めているのである。


 第2には、製造業が生産設備の廃棄を進めてきたことの反動で、いわゆる設備の更新投資がジワジワと盛り上がっている。デフレの進行や国際競争の激化の中で、日本のメーカーは投資を控えるばかりでなく、過剰設備のスクラップを推し進めた。しかし、それをやりすぎたことで、稼働率が上昇、むしろ足元では、生産能力を幾分増強しなくてはならない状況にある。これが、企業設備投資の底堅さにつながっているわけである。


 しかしながら、日本経済が安定化してきたからといって、景気循環が消滅したわけではない。景気循環は、主として、製造業の交易条件循環とハイテク部門の在庫・生産循環によって引き起こされてきたが、こうした景気循環は今回の局面でも不変である。経済の構造的な改善は、景気循環を消し去るほど強くはないとみられる。


 交易条件とは、製造業の産出価格と投入価格の比率であり、企業財務的に言えば、粗利率と高い相関のある経済指標である。その交易条件は、製造業の企業利益に対して、約4四半期、GDPに対して5〜6四半期、先行する傾向がある。


 交易条件の循環は、素材価格の循環に代表される世界景気の循環を反映しているが、過去のデータを分析すると、素材価格に対する上昇圧力、あるいは交易条件に対する下押し圧力がピークとなってから、およそ1年後に、製造業の企業利益が最も悪化する傾向がある。仕入れ価格上昇というコスト・プッシュ要因が一定の時間差を経て、企業利益の悪化として顕在化するということである。


 問題は、こうした利益循環を想定した場合、今回の循環については、いつ、製造業の業績が大きく悪化するのか、ということである。ずばり、その答えを言うと、それは、足元の4−6月期、そして7−9月期である。これは、今回の循環についてみた場合、交易条件が最も大幅に悪化したのは昨年の半ばから秋にかけてであったからである。


 重要なことは、交易条件の動きからみる限り、4−6月期、7−9月期の企業業績については、やや悪化するといった生易しいものではなく、ドスンと落ちるというイメージである。これは、添付したチャートをみれば一目瞭然である。交易条件の前年比は、4−6月期に鋭角に下へ折れ曲がっている。


 直感的には、企業の4−6月期決算報告では、予想外の業績悪化や先行きの業績下方修正のラッシュが起こる可能性があるということである。


 なぜ、このような事態を招いてしまう可能性があるのか。それは、日本企業(製造業)の価格支配力が本質的に改善していないからである。世界的な商品相場の上昇や原油価格の高騰は、世界景気が順調に拡大しているときには、売上の拡大によってなんとか吸収できるが、ひとたび世界的に需要の減速が生じれば、売上が伸び悩む中でコストの増加を吸収しきれなくなる。この結果、利益が直撃されるのである。


 日本企業による、市場シェアを維持するために製品価格を引き上げない、という戦略のツケが一気に爆発することになる。外国人の日本経済楽観論に乗ることは今暫く見合わせた方が良いだろう。株式市場は業績の大幅下方修正をまだ織り込んではいない。利益循環を無視して強気化するのは得策ではないのである。

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