最近における国際的会計基準の動向と企業経営の対処(連載 第1回)
公認会計士 佐藤真良
T はじめに

 近年、企業会計のプレゼンスが世界中で高まっています。 企業会計は、文字通り、企業による会計です。 企業の特質は営利を目的としていることであり、それゆえ企業経営の基本は利益の獲得を指向したものです。

 ここでいう利益とは、抽象的な利潤とか漠然とした"もうけ"を意味するのではなく、企業会計により認識・測定される利益です。 すなわち財務諸表により定期的に投資家、債権者等に報告される利益を意味します。

 利益獲得能力すなわち収益性そしてその基盤となる財産の状態すなわち財政状態の2要素が高い比重で企業の評価を決めます。 収益性は経営成績から推し量られ、それは「損益計算書」により表示されます。 財政状態は企業資本の調達(負債および資本)と運用の状況であり、「貸借対照表」により表示されます。 損益計算書と貸借対照表は財務諸表の代表であり、つまりは企業会計による財務報告が企業経営をおおむね評定してしまうといえるでしょう。

 企業によるこのような外部報告会計は財務会計とよばれます。 財務会計の特徴は、企業会計の基準に基づき会計行為を行うことです。 企業会計の基準とは、一般に公正妥当と認められた会計の諸原則のことであり、企業はそれに従って会計処理・表示を行わなければなりません。 そのような企業会計の基準は、一般に国の制度に基づくものであり、国によってその内容が異なります。 つまり、全く同一の企業活動であっても国によってその会計処理基準が異なり、ひいてはその結果の利益が異なることがありえます。 グローバル時代を迎えて企業への投資が世界的規模で行われるようになると、投資家においては、 この企業評定の「ものさし」すなわち企業会計の基準が各国で相違することに不便さを感じるようになってきました。 比較評価対象たる各国企業の会計報告の作成基準が国により相違すると、比較可能性が阻害されるからです。 各国資本市場間のこのような企業会計およびディスクロージャーの基準の相違解消のため国際的共通化の必要性を明言し、 行動プログラムを打ち立てたのは、証券監督者国際機構(IOSCO)の第一作業部会(WP1)です。 その1998年会議では、当時の国際会計基準委員会(IASC)による国際会計基準(IAS)について世界会計基準としての適格性の付与、 国際的監査基準設定、目論見書記載事項の標準化などが検討課題とされています。

 こうした事態に刺激を受けて、1998年以降、国際会計基準委員会による国際会計基準設定活動は活発化しました。 わが国でも1996年11月に当時の橋本内閣のもとで公表された「わが国金融システムの改革―2001年東京市場の再生に向けて」を受けて、 国際会計基準との調和を画った会計基準が矢継早に設定されました。

 本稿では、こうした企業会計のグローバリゼーションをふまえ、それが企業経営に与える影響を考察し、かつ、 わが国企業の対処について以下の項目により考察したい。

 一つは、最近設定されたわが国の会計基準が、いわゆる国際的会計基準といわれるものにどのように影響を受けたのかその特質を検討し、 企業経営の対処について考察します。

 もう一つは、国際会計基準審議会(IASB)が取り組んでいる最近の主要なテーマについて、会計基準設定の方向性を探り、 それがわが国企業経営にどのような影響を及ぼす可能性があるか、またそれへの対処を考察します。




『グローバル化時代における経営の課題と展望〔U〕』明星大学経済学部共同研究(2003)より
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