最近における国際的会計基準の動向と企業経営の対処(連載 第15回)
公認会計士 佐藤真良
W おわりに

 本稿では、最近の企業会計基準の動向が企業経営に与えるであろう影響を検討し、かつはそれへの対処を試みに論じてみました。

 まず、減損会計、企業結合会計、四半期報告というわが国において新規導入予定の会計基準の特質についてふれました。次に、現在、国際的会計基準設定主体で論議がなされており、会計基準として成立したあかつきには、わが国の会計基準にも多大な影響を与えるであろう項目の動向についてふれました。金融商品公正価値会計、ストック・オプションの会計、業績報告と損益計算書の表示をとりあげました。両者のいずれの項目についても、わが国企業の経営に対して与える影響の推察のみならず、わが国企業がどのように対処すべきかについての考察も示しました。

 総じてこれらの会計基準は、財務諸表の国際的比較可能性向上の名のもとに、単一の会計処理方法を各国において採用すべしという収れんの方向性をおびています。また、これら会計基準はいずれも内容的に公正価値(時価)を重要視し、貸借対照表の資産・負債の測定を損益計算書の収益・費用の測定に優先するものです。その結果、企業の損益は、1期間の公正価値の変動額を反映することとなり、変動性の激しい損益を報告することを余儀なくされます。そういった内容の損益は、会計上の利益の客観性と現在性のみを重要視し、企業の意図を排除する利益であり、また、投資家をより短期志向、かつ投機志向にする利益といえます。このような利益が、長い眼で見たときに企業経営にとって好ましいものか検討が必要でしょう。

 とりわけわが国では、いわゆる持合株式というものの解消が進み機関投資家が増加している現状ではそれは大切であると思われます(注・12)

 機関投資家は長期にわたって経営に関与する意思が乏しく、企業の長期的発展にも関心が薄いと考えられるからです。企業と投資家の価値の対立が投資家の価値観を企業経営に押し付けることになりかねません。投資家の圧力は企業統治を通じて企業経営を正しくすることも期待できるが、むしろ歪めることも懸念されます。経営者と機関投資家の価値基準が違うからです。とくに問題は、機関投資家の短期的視点での利益への関心です(注12参照)。短期的視点での利益への関心は、企業への短期的なパフォーマンスを強制することになるでしょう。企業会計は、理論的な利益の測定を標榜しているはずが、資本市場を中心にした短眼的マスコミ活動と大差ないということになりかねない危惧があります。

 わが国企業としては、国際会計基準設定主体によるそうした近視眼的な会計基準の設定に異議を唱え、あくまで現実的かつ妥当な会計基準をわが国基準として設定開発し、その適正性を主張していくべきです。その際の国際的慣行との調和ということについては、重要な財務情報の「注記」という手段によるのが至当です(たとえば、国際的会計基準で時価評価を要求しているが、わが国基準により時価評価していない場合の時価評価差額などの注記)。これが筆者の主張の要約です。こうした主張が説得力を持つためには、わが国企業がグローバル会計基準でも国際的競争の場で十分に戦えるだけの強固な収益力と財政状態そして規律性を具備することが要件となります。そして一国の経済的な繁栄を支え、また支えられる必要があります。一国の経済的繁栄なくして、企業が反グローバルな会計基準の正当性を訴えてもそれは負け犬の遠吠えにすぎないでしょう。

 そのために、わが国が強力な経済力を回復すべく経済戦略と経済政策が必要とされます。企業レベルの会計戦略以前に一国の経済戦略が望まれるのです。

 


(注・1)
加護野忠男「持ち合い解消の受け皿―従業員持株会の促進を」日本経済新聞 2001年6月28日。

『グローバル化時代における経営の課題と展望〔U〕』明星大学経済学部共同研究(2003)より
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