最近における国際的会計基準の動向と企業経営の対処(連載 第9回)
公認会計士 佐藤真良
V 今後の国際的会計基準の展開と企業経営への影響

 前節では、最近設定されたわが国会計基準が国際的会計基準の影響を受けたものであることを検討しました。 そして、それらの内容とわが国企業経営への影響を考察しました。

 本節では、今後アメリカの財務会計基準審議会(FASB)および国際会計基準審議会(IASB)により設定されるであろう将来の会計基準について、 その内容と特徴を検討します。そして、それらがいずれ世界共通の会計基準の位置づけを得ていくであろう動向に対して、 わが国企業がいかに対処すべきか試みに考察を行いたい。重要な会計テーマとして次の3つを取り上げます。

  1. 金融商品の全面公正価値会計
  2. ストック・オプション会計
  3. 業績報告と損益計算書


1.金融商品の全面公正価値会計

 2000年12月14日に、国際共同ワーキング・グループ(JWG: Joint Working Group of Standard-Setters ―当時の国際会計基準委員会(IASC)と 日本を含む9カ国の会計基準設定主体の共同ワーキング・グループ)は、 「ドラフト・スタンダード―金融商品および類似項目」(以下、「ドラフト・スタンダード」)を公表しました。

 ドラフト・スタンダードは、国際会計基準審議会(IASB)理事会により正式な基準書として採択されていないが、 現在でもIASBのアクティブ・リサーチ・プロジェクトとして存在しています。 仮に、ドラフト・スタンダードのような金融商品の全面公正価値会計基準がIASBにより採択されると、わが国の会計にも大きな影響を与えるでしょう。

(1)ドラフト・スタンダードの特徴

 ドラフト・スタンダードは、金融商品および類似の項目の会計処理について、現行の国際会計基準書(IAS)39号の内容を大きく変更する提案を行っています。 そのなかには、金融商品の評価に係り以下の事項が含まれています。

  1. ほとんどすべての金融商品を公正価値(時価)で測定すること。
  2. 公正価値の変動により生じる損益のほとんどすべてを、発生した期の損益計算書上で認識すること。
  3. 金融商品および財務リスクならびに損益計算書への影響に関する開示の拡張を行うこと。

 もともとドラフト・スタンダードは、IASCが1997年3月に公表した「金融資産および金融負債の会計処理に関するディスカッション・ペーパー」を 基準化しようとするものであり、「初めに結論ありき」なのです(ドラフト・スタンダードp.A)。

 それはさておき、ドラフト・スタンダードによると、金融商品の評価に係り現行のわが国の金融商品会計基準には、 以下のような重大な変更がもたらされることになります。

図表5 金融商品全面公正価値会計の影響

<1> 「その他有価証券」(売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社・関連会社株式等に分類されるもの以外の有価証券)についても、時価評価差額は資本の部に直接計上するのではなく、当期の損益として計上されます。
<2> 満期保有目的の債券についても、時価評価され、評価差額は当期の損益として計上されます。
<3> 売掛金や貸付金についても時価評価され、評価差額は当期の損益として計上されます。
<4> 買掛金、借入金、社債についても時価評価され、評価差額は当期の損益として計上されます。その結果、企業自身の信用度の低落(信用リスクの上昇)による負債の時価の低落が、当該企業の利益として認識されることになります。他方、企業自身の格付の向上が、企業会計上の損失をもたらすことになります。

 JWGは、ドラフト・スタンダードの基礎となっている金融商品の全面公正価値モデルは、 原価モデルまたは原価・公正価値の混合モデルよりも目的適合性において優れており、 したがって、経済的意思決定の目的上、そこから引出せる情報の有用性も優れていると結論づけています。 そして、ドラフト・スタンダードの合理的で信頼性のある適用が可能であるとしています。

 ドラフト・スタンダードの特徴は、ほとんどすべての金融商品について市場出口価格(market exit price)を 中核とする公正価値により事後測定し、公正価値の変動について、その基礎となる原因事象が発生した期の損益として計上することにあります。 しかも、公正価値変動損益の計上は一元的に損益計算書上で行われ、後述の「業績報告プロジェクト」で検討されている「包括利益」を構成することになります。

 アメリカでも、財務会計基準審議会(FASB)による金融商品の公正価値会計プロジェクトは、 1986年設置以来の超長期プロジェクトです。アメリカにおいても、プロジェクトの最終目標はすべての金融商品を公正価値で測定する会計基準の開発と設定です。 このことは、1998年6月に公表されたデリバティブについての公正価値会計基準書(SFAS 133号)の第334項において次のように明言されています。

 『審議会は、金融商品および金融商品のポートフォリオの公正価値の決定に関する概念的および実践的な諸問題のタイムリーな 解決に向けて精力的に取組んでいる。全ての金融商品の公正価値による測定の精度を上げる技法は、急速に発展し続けており、 審議会としては、概念上および測定上の諸問題が解決されたあかつきには、全ての金融商品が貸借対照表において公正価値に よって計上されるべきだと確信している。』

 このような動向のなかでFASBは、1999年12月に「公正価値による金融商品および関連する特定の資産または負債の報告」と いう表題の「予備的見解」を公表しました。 表題が示すように、この予備的見解は、将来的にありえる金融商品の公正価値による会計の要請について説明したものです(注・8)。 予備的見解が公表されて以来、プロジェクトに関する公に目立った活動はあまり見られませんでした。 その後、2003年6月からFASBは、新たに公正価値測定技法についての統一的な基準書の作成をプロジェクトの当面の目標としています。

 


(注・8)
この論拠について興味のある方は、佐藤真良「JWG『ドラフト・スタンダード―金融商品および類似項目』の論評―その批判的検討を通じてわが国における会計基準設定について考える」三田商学研究 第44巻第5号 を参照して下さい。

『グローバル化時代における経営の課題と展望〔U〕』明星大学経済学部共同研究(2003)より
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